2024.02.20

耳鼻科往診|補聴器のおはなし

皆さん、こんにちは。
とにかく寒さに弱い、あい駒形クリニックの高橋秀行です。
本シリーズでは、当院の「耳鼻科往診」について、少し詳しくご説明してゆきたいと思います。
今日は、耳の診察の続編で、補聴器のお話です。

「聞く」ことは重要な能力の一つ

聴覚を用いる動物にとって「聞く」という能力は、周囲の環境に常に気を配り、外敵の接近をいち早く察知したり、逆に獲物を探したりと、生存に欠かせない能力の一つです。
私は猫を2匹飼っていますが、彼らの耳の動きを観察しているだけでも、猫たちがいかに聴覚を研ぎ澄まして周囲を伺っているかがよくわかります。

キュウイ(左)とミカン(右)

一方、人間の聴覚は、音を「聞く」以外にも、言葉を「聞く」、音楽を「聴く」等、他の動物と比べて非常に多彩な機能を担っています。
特に言語を用いたコミュニケーションの能力は、人間が文明を発展させる過程で獲得した能力の中でも、最も重要な能力の一つだと思います。
また、音楽を聴くという能力は、生存のための機能であった聴覚を発展させて、人間が豊かさを育むための機能として獲得した、これまた重要な能力であると思います。

このように人間の聴覚は、五感と呼ばれる人間が持つ重要な感覚の一つですので、耳の診療は耳鼻科の中でも大きな柱となっています。
聴覚に影響を与える疾患は非常に多岐にわたり、治療法も薬、手術、補聴器等のデバイス等、疾患によってさまざまですが、今日は補聴器についてお話したいと思います。

補聴器の歴史

皆さんは、補聴器にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
補聴器の歴史は意外に古く、17世紀まで遡ります。
当時は「補聴器」という言葉はまだなく、イヤー・トランペットと呼ばれる耳に当てる部分が細く、音を受ける開口部が拡がったトランペットのような形状の器具が主流でした。
19世紀には、補聴器の歴史で初めてのイヤー・トランペットの工場生産が、Frederik Charles Reinによってロンドンで行われています。
イヤー・トランペットは難聴に一定の効果をもたらしていましたが、増幅効果の不足、手に持って使用する煩わしさ等の欠点もあったようです。

現在の補聴器の原型となる、マイクで集音した音を電気的に増幅する方式の補聴器は、20世紀初頭に誕生しました。
当時はトランジスタではなく真空管の時代であったため大型で、持ち運びも困難であったようですが、戦後にはトランジスタを用いた補聴器が開発され、現在のような耳掛け型の補聴器の誕生に至っています。
こうしたアナログ補聴器と呼ばれるタイプの補聴器の登場は大きなブレイクスルーでしたが、「大きい音がうるさく聞こえる」「言葉が聞き取りにくい」等の欠点もありました。

そんなアナログ補聴器の欠点を克服したのが、1990年代に登場したデジタル補聴器です。
デジタル補聴器は、単純に音を増幅するのではなく、大きな音は抑えて小さな音のみを増幅するノンリニア増幅機能の搭載によって、飛躍的に性能が進歩しました。
さらに、雑音を抑制するノイズリダクション機能や、会話のみを明瞭にするスピーチエンハンサー機能など、デジタル技術の進歩により様々な機能が開発され、実装されるに至っています。
雑音抑制機能や会話強調機能は、最近では多くのヘッドホンに搭載されていますが、補聴器業界で先行開発された技術が応用されているのかなと、勝手に想像しています。

補聴器の装用時は調整が必要

このように「うるさいだけで会話が聴きとれない」という昔ながらのイメージを覆す飛躍的な進歩を遂げた補聴器ですが、万能かというと必ずしもそうではありません。
聴力には語音明瞭度という検査があり、音を大きくした場合に言葉を正確に聞き取れるかを評価します。
語音明瞭度が良好であれば補聴器の効果が期待出来ますが、大きな音でも言葉として明瞭に聞き取れない場合、補聴器の効果は限定的です。

また、補聴器は装用すればすぐに聴こえるというものではなく、メガネと同様に一人一人の聴力に合わせて細かく調整が必要です。
デジタル補聴器の場合は周波数毎に細かく音の増幅を設定するため、調整なしではその力を発揮することが出来ません。
こうした補聴器の特性を知らずに通販等で購入してみたものの、使い物にならずに耳鼻科に相談に来られる患者さんは多くおられるので、広く啓蒙してゆく必要があると感じています。

きこえの詳細な評価や補聴器の調整(フィッティング)には原則お店に来店する必要があり、在宅医療を利用されている患者さんにはまだハードルが高いのが現状です。
今後、補聴器店の出張フィッティングサービスが充実してくれば、当院の耳鼻科往診と協同して在宅での補聴器導入が可能となるため、期待しているところです。

耳鼻科往診の解説シリーズ、今後も続けてゆきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

参考文献
神田幸彦. Audiology Japan 60, 121~128, 2017.

髙橋 秀行
この記事の執筆者
あい駒形クリニック 医師

髙橋 秀行 (たかはし ひでゆき)

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