2026.01.28

副院長の小話|2年間の研究活動を振り返って

皆さん、こんにちは。
スターバックスのバレンタイン限定マグをゲットし損ねました、あい駒形クリニックの高橋秀行です。

私は2023年12月より、群馬大学に非常勤研究員として勤務しています。
あい駒形クリニックでの臨床業務と並行しながらの研究活動ではありますが、この約2年間でいくつかの研究成果を形にすることができました。
今回は、その取り組みの内容と、今後の展望についてご紹介したいと思います。

研究成果のご紹介

この2年間で取り組んできた研究の成果は、いくつかの論文として発表することができましたので、以下に紹介したいと思います。

Cancer-Associated Fibroblast Heterogeneity Shapes Prognosis and Immune Landscapes in Head and Neck Squamous Cell Carcinoma
頭頸部扁平上皮癌において、がん関連線維芽細胞の多様性が腫瘍免疫環境や予後と密接に関係することを、single-cell RNA-seq 解析により明らかにしました。

Diverse Landscape of Group 1 Innate Lymphoid Cells Predicts the Prognosis in Patients with Head and Neck Squamous Cell Carcinoma
頭頸部癌における1型自然リンパ球(ILC1)の多様性を解析し、その免疫学的特徴が患者予後と関連する可能性を示しました。

ADGRB3-High and POSTN-High Fibroblasts Are Markers of Endotypic Traits in Chronic Rhinosinusitis
慢性副鼻腔炎において、特定の線維芽細胞サブタイプが病態(エンドタイプ)を反映する指標となり得ることを、トランスクリプトーム解析から示しました。

Comprehensive Profiling of the Heterogeneity of Molecular Endotypic Traits in Chronic Rhinosinusitis
公開データベースと臨床検体を統合解析し、慢性副鼻腔炎が複数の免疫エンドタイプから成る不均一な疾患であることを明らかにしました。
特に、いわゆる2型炎症だけでなく、1型炎症や、ノーベル賞受賞で話題になった制御性T細胞に関連した反応が共存するケースがあること、そしてそれらが治療経過と関連する可能性を示した点は、将来的な個別化医療(precision medicine)につながる知見と考えています。

論文以外では、私が共同執筆した教科書が出版となりました。
Immune Mediators in Cancer: Methods and Protocols
私がこれまで取り組んできたがん関連線維芽細胞を用いた実験系についてご紹介させて頂きました。

現在取り組んでいる研究分野

研究員として現在主に取り組んでいるテーマは、大きく分けて二つあります。

一つは腫瘍免疫学、特に頭頸部がんにおける免疫細胞や線維芽細胞の多様性と予後・治療反応との関係です。
もう一つは、鼻副鼻腔炎やアレルギー疾患に関する研究で、免疫応答の違いが病態や治療効果にどのように影響するのかを分子レベルで解析しています。

これらはいずれも、「なぜ同じ診断名でも患者さんごとに経過や治療反応が違うのか」という、臨床現場で日々感じる疑問に直結したテーマです。

「ドライ解析」という研究スタイル

あい駒形クリニックでの診療と並行しての勤務であるため、毎日のようにウェットラボで実験を行うことは現実的ではありません。

そのため私の研究の中心は、公開データベースから取得可能な single-cell RNA-seq や bulk RNA-seq データを統合して解析する、いわゆるドライ解析です。
近年は質の高いオープンデータが急速に蓄積されており、適切な解析を行えば、実験を新たに行わなくても非常に多くの知見を引き出すことができます。

この「既存データを最大限に活かす」研究スタイルは、時間やリソースに制約のある立場だからこそ磨かれてきた強みだと考えています。

大学院生の指導という役割

研究員としてのもう一つの重要な役割が、大学院生の研究テーマに対する助言や、具体的な実験手技の指導です。
研究計画の立て方、データの解釈の仕方、論文としてまとめる際の考え方など、「答えそのもの」よりも「考え方」を共有することを特に大切にしています。

自分自身がこれまで試行錯誤してきた経験が、若い研究者の遠回りを少しでも減らす助けになればと考えています。

科学研究費の採択、そして臨床データを用いた研究へ

大変ありがたいことに、2025年度からは
自然リンパ球を標的とした頭頸部癌における新規バイオマーカーおよび免疫療法の開発
という研究課題が、科学研究費助成事業(基盤C)に採択されました。

これにより、少しずつではありますが、群馬大学附属病院の患者さんからご提供いただいた臨床データやサンプルを用いた解析にも取り組んでいます。
大学院生と協力しながら、データ解析と実際の臨床情報を結びつける研究を進められる環境が整いつつあります。

生成AI時代における研究の在り方

生成AIの急速な進歩によって、文献検索や情報整理、研究テーマの下調べは、かつてないほど容易になりました。

その一方で、新規性の薄い、似たような論文が急速に増えていることも指摘されています。
AIはネットワーク上に散らばった情報を収集・要約する点では人間を凌駕しますが、そこから本質的な問いを立て、新しいアイデアを創発することは、現時点では人間の役割です。

AI時代に生きる研究者には、AIを道具として使いこなしながらも、「自分の頭で考える力」がこれまで以上に問われていると感じています。

医学研究の真のゴール

医学研究のゴールは、論文を書くことではありません。
真のゴールは、患者さんに貢献することです。

AI技術が進歩した今だからこそ、研究の効率や見栄えだけでなく、「この研究は最終的に誰の役に立つのか」という視点を常に意識し続けたいと思います。
今後も、臨床と基礎、データ解析と実患者データをつなぐ立場として、地道ではありますが研究活動を続けてゆきたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

髙橋 秀行
この記事の執筆者
あい駒形クリニック 副院長

髙橋 秀行 (たかはし ひでゆき)

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