皆さん、こんにちは。
最近数年ぶりに風邪をひきました、あい駒形クリニックの高橋秀行です。
本日は、風邪のお話です。
風邪ってどんな病気?
皆さんは「風邪ってどんな病気?」と聞かれた時に、正しく答えられますか?
医学において、風邪ほど診断基準が曖昧な疾患も、なかなか他にないように思います。
教科書には「様々なウイルスによって起こる症候群」などと書かれていたりしますが、そもそも日常診療ではウイルス感染かどうか確定されない場合がほとんどです。
実際は、風邪に特徴的な症状や所見、経過をもって風邪と「みなしている」のが現状かと思います。
風邪とみなすべき特徴としては、「鼻水」「喉の痛み」「咳」「発熱」等の諸症状が連続して、あるいは同時に認められ、細菌感染による咽頭炎や副鼻腔炎、肺炎等の感染症や、他のウイルス感染症(インフルエンザウイルス感染症、新型コロナウイルス感染症等)などの鑑別疾患が否定される場合かと思います。
一方、「風邪をひいた」という患者さんの訴えには注意が必要で、本当に風邪なのか、怖い病気が隠れていないかを、丁寧に紐解く必要があります。
特に、発熱のみで咳や鼻汁、咽頭痛などの感冒症状が目立たない場合は、尿路感染や敗血症、前立腺炎、感染性心内膜炎、膠原病、悪性腫瘍などの疾患を見逃さないことが重要です。
また、気道感染症を引き起こすウイルスは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのような例外を除き、抗原検査などを用いて確定診断することが出来ません。
検査で診断出来ない以上は、身体所見や問診で得た情報を基に風邪と診断することになりますが、他の病気が全て否定されて初めて診断出来る、除外診断になります。
このため、どうしても医師の専門性や経験に左右されてしまうだけでなく、熟練した医師でも判断に迷うことは少なからずあり、風邪、すなわちウイルスによる気道感染症の診断を難しくしています。
風邪の治療方針
風邪というのは上述のように診断基準が曖昧なので、治療方針もあまり体系化されていません。
我々医師は、研修医の間、急性期病院で様々な専門的医療について学ぶのですが、風邪の診断・治療についてはあまり体系的に教わった記憶がなく、上級医のやり方を真似するような形で仕事を覚えていったように思います。
幸い、昨今は風邪の診療に関する多くの良書が出版されておりますので、こうした書籍から得た知識も用いながら、的確な診断・治療を心掛けています。
私は専門が耳鼻咽喉科なので、耳鼻科の外来をするときは、多いと1日に100人近い風邪の患者さんを診療しています。
耳鼻科の外来に来る患者さんの訴えで多い風邪症状は「鼻水」「喉の痛み」「咳」「発熱」です。
問診と身体所見から多くは風邪と診断されますが、強い咽頭痛と発熱を認めて食事が摂れず扁桃炎と診断される場合や、発熱と顔面の痛み、膿性の鼻水を多量に認めて急性副鼻腔炎と診断される場合など、気道の細菌感染症も含まれています。
こうした疾患を的確に診断し、適切な対応を行うことが、耳鼻科医の腕の見せどころとなります。
風邪の治療薬は存在しない
では最終的に風邪と診断された場合、どのような治療が必要なのでしょうか。
風邪の治療薬、すなわち風邪を引き起こすウイルスに対する薬は存在しません。
インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのような、強い感染力や高い重症化率を持ったウイルスには例外的に治療薬が開発されていますが、風邪を起こすとされるコロナウイルスやライノウイルスに対して保険適応となっている抗ウイルス薬は未だ存在しないのです。
これは、新型コロナウイルスの治療薬が、非常に短期間で開発されたのとは非常に対照的です。
同じコロナウイルスなのに、風邪を起こすコロナウイルスの薬がいつまで経っても開発されないのは、なんだか不思議ですよね。
これには様々な理由があるのでしょうが、一番の理由は「風邪は自然に治る病気である」ことに尽きるのかなと思います。
これは風邪に限ったことでなく、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症も同様で、気道のウイルス感染症の多くは自然に治ります。
もちろん、乳幼児や高齢者など、重症化リスクの高い方に適切なタイミングで抗ウイルス薬を用いることは重要ですが、一律に全ての方に必要ではないのです。
病院へ受診することの意義
しかしながら、つらいのを我慢して病院に来てくださった患者さんに向かって「あなたの病気はただの風邪です、自然に治りますので薬は必要ありません、ではお大事に」というわけにはいきません。
なので、通常は市販の風邪薬と似たような薬を処方することになりますが、市販の薬と特に効果に大きな違いはありません。
むしろ病院へ受診することの意義は、効く薬をもらうことではなく、風邪と考えて自然治癒を待っていてもよいのか?を病気のプロに判断してもらうことだと思います。
一見風邪に見えて、実は命に関わる病気だったということは、一定の確率で起こります。
私の個人的な経験だけでも、喉の痛みや声枯れを訴えて来院された方が、重症な喉の感染症で窒息寸前だったということを、年に何人も経験します(しかもたった週1回の外来で)。
こうした患者さんの多くが、救急搬送されて九死に一生を得た後、「先生のおかげで命拾いしました」と、退院後に挨拶に来てくださるのですが、人の役に立てて本当に良かったと嬉しく感じるとともに、正しい風邪診療の大切さを身に沁みて感じる瞬間でもあります。

当クリニックの訪問診療でも、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザだけでなく、風邪の患者さんも多く経験します。
多くが重症化リスクの高いご高齢の方ですので、若い方の風邪とは異なる視点で診療を行う必要があります。
このため一律に風邪だから風邪薬というわけではなく、肺炎などの細菌感染症の合併リスクを考慮して、予防的に抗菌薬の投与を行う場合もあります。
このように診断だけでなく、患者さんの背景や全身状態、既往歴等も考慮しながら適切な治療方針を決定する必要があるのが、風邪診療の難しさであり、奥深さでもあるのです。
これからも、耳鼻咽喉科専門医として、よりハイレベルな風邪診療を目指して、日々経験を積んでゆきたいと思います。
あい駒形クリニックの訪問診療解説シリーズ、今後も続けてゆきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
<参考文献>
山本舜悟.かぜ診療マニュアル 第3版.日本医事新報社,2019.




